ラヴレス
「あんたは今すぐ風呂掃除!…行きな!」
トタン扉の壊れた掘っ立て小屋を指差した「チィネエ」に、カンタはぴゅーっと風の如くその場を去って行ってしまった。
まるでアニメーションでも見ているような気分に陥り、キアランは一瞬、自分が何故ここに居るのか解らなくなる。
しかしすぐに、掘っ立て小屋のなかに消えたかと思ったカンタが、ひょい、と壁から顔を出した。
「チィネエ」は背中を向けている為、それに気付いたのはキアランと秘書のふたり。
カンタはすう、と息を吸い込んだかと思えば。
「ねーちゃんの野生児デブー!」
叫んだ。
小気味良く響いたそれに、ぴくり、と「チィネエ」の肩が震える。
呆然とする異国人ふたり。
「…ぷーっ!」
呆気にとられたのも束の間、キアランはすぐさま吹き出した。
そのまま、庭に響き渡るような遠慮のない爆笑ぶりを披露する。
「…キアラン様、失礼ですよ」
すかさず秘書が咎めるが、キアランの笑い声は収まりそうにない。
彼の主人がここまで盛大に笑ったのはいつの日か。
異国とあって、気が緩んでいるのかもしれない。