ラヴレス










「あんたは今すぐ風呂掃除!…行きな!」

トタン扉の壊れた掘っ立て小屋を指差した「チィネエ」に、カンタはぴゅーっと風の如くその場を去って行ってしまった。

まるでアニメーションでも見ているような気分に陥り、キアランは一瞬、自分が何故ここに居るのか解らなくなる。

しかしすぐに、掘っ立て小屋のなかに消えたかと思ったカンタが、ひょい、と壁から顔を出した。

「チィネエ」は背中を向けている為、それに気付いたのはキアランと秘書のふたり。

カンタはすう、と息を吸い込んだかと思えば。





「ねーちゃんの野生児デブー!」


叫んだ。

小気味良く響いたそれに、ぴくり、と「チィネエ」の肩が震える。

呆然とする異国人ふたり。





「…ぷーっ!」

呆気にとられたのも束の間、キアランはすぐさま吹き出した。

そのまま、庭に響き渡るような遠慮のない爆笑ぶりを披露する。





「…キアラン様、失礼ですよ」


すかさず秘書が咎めるが、キアランの笑い声は収まりそうにない。

彼の主人がここまで盛大に笑ったのはいつの日か。

異国とあって、気が緩んでいるのかもしれない。









< 42 / 255 >

この作品をシェア

pagetop