ラヴレス
目の前で笑われている「チィネエ」の表情は見えない。それが逆に、怖い。
見えるわけもないのに、メラメラと怒る炎を垣間見た気がした。
「ははははははっ野生児、デブ…って、ははははは!」
なにがそんなに可笑しかったのだろう。
キアランは爆笑し続けている。
「ぐふっ」
しかし次の瞬間には、ボス、と腹を殴られて笑い声はおろか息まで停まりかけた。
「ぶっ殺されたいの、アンタ」
真上から一言。
冷ややかな、まさか女性が吐くとも思われない言葉に、キアランは言葉もなく腹を押さえた。
「……」
「……」
庭先にぽつりと立ち尽くす、腹を押さえながらまさしく腸が煮えくり返り、喋りたくもないキアランと、困惑する秘書。
そんなふたりに対峙する半裸の「チィネエ」は、寒さに鼻を鳴らした。
暫し考え込むように目の前に立つ異国の人間ふたりを観察し――キアランに関しては舌打ちした――やがて、やたら簡潔に、正体不明の客人ふたりにこうに言い渡したのだった。
「玄関はあっち」
促された先には、確かにそれらしい扉が鎮座していた。