ラヴレス











目の前で笑われている「チィネエ」の表情は見えない。それが逆に、怖い。

見えるわけもないのに、メラメラと怒る炎を垣間見た気がした。





「ははははははっ野生児、デブ…って、ははははは!」

なにがそんなに可笑しかったのだろう。

キアランは爆笑し続けている。


「ぐふっ」

しかし次の瞬間には、ボス、と腹を殴られて笑い声はおろか息まで停まりかけた。



「ぶっ殺されたいの、アンタ」

真上から一言。

冷ややかな、まさか女性が吐くとも思われない言葉に、キアランは言葉もなく腹を押さえた。





「……」
「……」


庭先にぽつりと立ち尽くす、腹を押さえながらまさしく腸が煮えくり返り、喋りたくもないキアランと、困惑する秘書。

そんなふたりに対峙する半裸の「チィネエ」は、寒さに鼻を鳴らした。

暫し考え込むように目の前に立つ異国の人間ふたりを観察し――キアランに関しては舌打ちした――やがて、やたら簡潔に、正体不明の客人ふたりにこうに言い渡したのだった。





「玄関はあっち」



促された先には、確かにそれらしい扉が鎮座していた。










< 43 / 255 >

この作品をシェア

pagetop