ラヴレス










――ちすみ、とは私のことだ。

このふたりの孫に当たるわけではなく、全くの他人だが、ふたりは実の孫か娘のように可愛がってくれている。



この寺で私が暮らし始めたのは、十四歳の夏頃。

女手ひとつで私を育ててくれた母が、過労でぽっくりと亡くなった。






『りむじんて、なに?』


『金持ちが乗る車よ。ダックスフントみたいに胴が長くてね。シャンパンにクラッカー、一流シェフのつまみに、極上のソファ……あぁ、素敵』


まるで少女のように夢見ていた母。

母の大好物は、「セレブ」。

水商売で私を立派に育ててくれた母は、無邪気で愛らしくて、「お金大好き!」と公衆の面前で豪語するような人だった。


今でも思い出す会話が、そんなものばかりだなんて笑える。

母の王子様は、私を認知しなかった「恋人」でもなく、白馬に乗ったおとぎ話の王様でもない。

彼女にとっての王子様の条件は、「気っぷのいい金持ち」かどうか、ただひとつ。

図太く傲慢で、正真正銘、金の亡者であった母が、そんな簡単に死ぬとは思っていなかった私はぽつねんとひとり残された。








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