ラヴレス
『―――ねぇねぇ、智純』
そう言って、嬉しそうに私を抱き締めてきた母を今でも覚えている。
『ママ、恋しちゃったかもしれない』
金至上主義の母からそんな言葉を聞くのは初めてだった。
母はいつだって、どんな素敵な外見の男性にアプローチされても。
『ハンサムですっごいお金持ちで、いいカモなの!』
としか言わなかったから。
『恋しちゃったの?すごいね、どれだけお金持ちなの?』
今までの母を知る私は、バカ正直。
けれど母は、そんなんじゃないの、と軽く私をたしなめる。
『すっごく貧乏なの。でも優しいの、素敵なの、大好きなの』
うっとりと夢見る母は、なんだか気色悪かった。
いつだって私を一番に考えてくれる母の次の言葉は、「諭吉さん」、「ドンペリ」に続き「リムジンに乗った王子様」。
そんな母がまさか、「貧乏」と名の付くものに惹かれるだなんて思ってもみなかったから。