ラヴレス
『今度、ママと智純、それからその人の三人で、デートしようね』
そう言ったママは、とても綺麗だった。
『天使みたいな人なんだから!』
なんてうっとり笑う母のほうがずっと天使みたい。
可愛くて無邪気でしっかりしてるけどちょっと抜けてる、だから私の父に当たる男に騙されちゃった、可哀想な人。
そんな母が、この時きっと「本気の恋」をしてた。
『どうしよう!ママ、天使のこと好き過ぎて今なら飛べちゃうかもしれない!』
母が幸せなだけで、私はその倍、幸せになれた。
母がぞっこん中の「貧乏な天使」なら、私の父親になってもいい気がしてた。
―――けれど、天使は現れかった。
三人でデートをしようと言い出したのは、確かに「天使」のほうからだったらしい。
母は朝からソワソワして、子供の私が宥めて――この時の母の可愛さったら、異常。
いつもの倍の時間をかけてお化粧して、昨日の夜のうちにふたりで決めた服を着る。
その日の母は、天使でなければ女神。
そうしてふたりして向かった、待ち合わせ場所の、景色のいい桟橋で。
母さんは天使に裏切られた。