ラヴレス
* * *
目の前に正座する綺麗な顔。
キアラン・アナベルト・シュナウザー。確実に舌を噛む。
シルバーブロンドの美しい稜線は朝陽を浴びて、じ、と黙ったままそこに鎮座していた。
目の前には楠を使った茶卓。
通された客間には、私とこの男しか居ない。
―――昨夜、主人を呼びにきた秘書は、キアランの姿を認めた途端、早口にこう捲し立てた。
『キアラン様、この方です!この方が、私達がずっと捜してきた「チフミ」です…!』
私を見て叫ぶ。
呼び捨て。
しかも、「チフミ」。
『私達の発音が間違っていたようです。あぁ、日本語とは難しい…!こちらの主人に資料を確認して頂いたところ、確かに、』
えらく丁寧な日本語を使うわりに、『チスミ』は発音できなかったって?
ふざけた話だ。
それに、このふたりが一体なんの話をしているか飲み込めない。
『―――このMiss,チフミが、叔父上であるアラン侯の捜し求めていた方です!』
秘書は興奮したように大声でそう言い放った。
私は事態が飲み込めないし、キアランは黙ったまま微動だにしない。