ラヴレス









「…今すぐシネ」


そして今朝方。

再び訪れたキアランとふたりだけで話をつけるために、私は神妙な顔をした彼を客間へと通したのだった。



「…シネとはなんだ。やぶからぼうに」

キアランは薄い白桃の唇を気持ち突き出し、私の理不尽な悪態に不機嫌そうな顔を浮かべた。

イギリス人が「やぶからぼう」という単語を知っていたことが笑える。



「…あんたのオジサンが、私の母さんを騙したイギリス人だった、…ってわけね」

わざわざ聞かなくても解ることだ。
オジサンだかお父さんだか、どっちでもいい。

裏切られたままの母さんは帰ってこない。

ふたりで「天使」を待ち続けたあの日から半年、母親は笑っていたけれど、過労で倒れてぽっくり逝っちゃったんだ。





「…叔父上は、君の母親を裏切ってはいない」


キアランの冷静な声が、私の中で沸々と湧く怒りや悲しみや苦しみを触発する。

きっと私は、今目の前に居るキアランと、会ったこともない「裏切りの天使」を重ねている。

キアランは私の仏頂面から視線を逸らし、呼吸を整えるように浅く息を吐いた。

今からとても重要なことを話す、と忠告するように。









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