ラヴレス
「―――君も昨日読んだだろう。僕の目的は、「智純」…君だ」
深い海の色だった。
真っ直ぐにこちらを見てくる暗い紺碧を見つめながら、智純は愕然とする反面、ふつりと苛立ちを感じる。
「叔父上は病床で僕に言った。『陽向の、私の大切な人の娘を、幸せにしてくれ』、…と」
不甲斐ない自分がなにもできなかった代わりに。
のうのうとベッドに伏せたまま、手紙すら書けなかった己の代わりに。
「―――『私が出来なかったことを、お前が受け継いでくれ』、と」
それはキアランをも呪縛する言葉だ。
心優しい叔父の、未だ消えない深く強い愛情が、歪む。
「……なんだそれ」
智純は、既にキアランから視線を逸らし、自分の膝に置いた拳を睨み付けていた。
キアランから、深く俯いた智純の表情は見えない。
ただ、声は掠れていた。
「今更、娘の私だけでも幸せにしようなんてムシが良すぎる…」
理由なんて、大した意味を持たない。
母の陽向は、最後まで最期まで、「天使」を思い続けていた。
母はもう、この世には居ない。