ラヴレス
「私が望むのは、母さんの幸せだ!母さんが笑っててくれるなら、なんだってよかった!母さんが初めて恋をした男なら、どんな貧乏男でも、甲斐性がなくても、外国の大金持ちでも、なんだってよかったんだよ…!」
そうだ、なんだってよかった。
母さんが笑ってくれるなら、幸せなら、なんだって、よかったんだ。
「どっかの金持ち男が、自分を貧乏学生だと偽って母さんに近付いたとしても、母さんのことを愛してくれてるなら、それだけでよかった…!」
あの、明るく高い青空の日。
遥か彼方の水平線の見えるベンチで。
「…私、なにも要らない」
しゃくりを上げた。
二十歳も過ぎた大の女が情けないったらない。
それでも、母が亡くなってからずっと考えていたことが、今まで誰にも言ったことのなかった言葉が、思いが、なにもかもが溢れている。
「…なにも要らないから、あの日、「天使」に来て欲しかったの……」
青空が夕焼けに変わる頃、ずっと待ち続けていた母は立ち上がった。
『帰ろうか、ちいちゃん』、て。
寂しそうな顔で、笑いながら。
待ち続けていた。
ずっと、待ち続けていた。