ラヴレス
「…もう、いい」
キアランの話を遮ったのは、智純の震える小さな声だった。
涙の跡が痛々しく、けれど、どこか強く、それでも投げやりに、彼女は喉を震わせる。
「…もう、いい」
繰り返される拒絶。
キアランは、互いの痛みに胸を痛めた。
これ以上関わらないでくれ、と全身が叫んでいた。
先程の激情から一転して、折れた小枝のような姿の智純に、キアランは苦しみが増す。
自身の判断で決着をつけていいのなら、キアランはすぐさまこの場を去っただろう。
これ以上、彼女の生傷に塩を塗るような真似はしたくなかったし、なにより引くことが出来るなら、自身の犠牲を払わずに済むのだ。
半永久的な契約として、この傷付いた少女のような「智純」の生きる「こころの家」に寄付を続ければいい。
それで多少でも、この施設の子供達が今よりもっと幸せに、主人の老夫婦が苦労なくやっていけるようになれば、それはそれで良いのだ。
けれど、「陽向」の悲しみばかりを訴える智純に、キアランはどこかで苛立ちも感じていた。
彼女の母と自身の叔父上の関係。
それらは確かに、悲しく苦しいものではあるけれど。