ラヴレス
「思うわけがない。私の母さんは、結局死ぬまであんたのオジサンとやらを引きずり続けた。表面では笑っていたけど、ずっと心の中で悲しんでた」
「それは君の母君だけではない。僕の叔父上は、意識を失っている間に、自身で選んだ愛した人を失ったんだぞ!?君の母君は嘆くばかりで、叔父上を探す努力すらしなかった」
売り言葉に買い言葉、は螺旋を描いて続く。
互いに、互いの大切な人の想いが関わっているからこそ、引けない。
ふたりは、大切な誰かのために自分を差し置いてでも怒ることのできる、優しい人間ではあるのだが。
なによりふたりはまだ若かったし、意地っ張りだった。
相手を黙らせられなければ、ガンとして自分からは黙らない。
キアランはなんやかんやと甘やかされ、イギリスでも有数の貴族の当主だというプライドから。
智純は、幼い頃に唯一の肉親を亡くし、世間に負けないように必死に生きてきたというプライドから。
似てはいるが、明らかに関係性は火と油。
そんなふたりだった。