ラヴレス
「…叔父上は、今も病床でずっとうなされている。君の母君の名前を呼びながら、だ」
キアランの視線は、もはや氷山が浮かぶ海のように冷ややかに澄んでいた。
反する智純も、激しく燃える炎のように、顔を真っ赤にしてキアランを睨み付けている。
「だからって母さんは生き返らない。今更罪滅ぼしして、楽になろうってわけ?それこそ自分本意だ…!」
パンッ。
智純が涙ながらに叫んだ瞬間、智純の頬に弾くような痛みが走った。
それはキアランが彼女の頬を叩いたからで、キアランは無意識に出した手ではあったが、後悔はしていない。
おあいこだ。
「…っ、帰れ!あんたの施しも、「天使」の同情も要らない!」
叩かれて激昂した智純は立ち上がり、襖を乱暴に引いて力一杯玄関を指差した。
なんだなんだ、と子供達が廊下に顔を出したが、老夫婦にたしなまれてすぐさま引っ込む。
「二度と私の前に現れるな!」
泣きながら叫ぶので、怒声というよりは悲鳴に近かった。
キアランは無表情のまま立ち上がり、智純が仁王立つ出口へと向かう。