ラヴレス
―――しかし、話はまだ終わってなどいなかった。
「…智純」
キアランは智純の目の前に立つと、自分の心臓の位置ほどしかない小さな身体を真上から睨み付けた。
そのゾ、とするような視線で見下されても、智純は怯まなかった。
「僕は、約束したんだ」
傍に居てくれなかった両親の代わりに、父として母として、自分を一人前の当主へと育ててくれた、大切な叔父上と。
「君がなんと言っても、僕は叔父上との約束を破るつもりはない」
腰を曲げて、鼻が触れ合うほど、近く。
化粧っけのない瑞々しく健康的な肌にくっついたふたつの目は、ギリリ、とやはり仇を睨むような強さを宿している。
気が強い、と心の端で笑いが洩れた。
本国の心優しい幼馴染みには、こんな顔、させようとしてもできないだろう。
キアランがまた少し、腰を曲げた。
シルバーブロンドと、少し茶色味の強い黒髪が、音もなく、額で混濁。
「―――僕は君を、イギリスへ連れて帰る」