ラヴレス






あそこまであからさまで幼稚な敵意など、キアランは味わったことなどなかったし、慣れてもいない。


アナベルト・シュナウザー家の跡目争いについては、継承者がキアランしか居なかった為、さして問題になるほどの騒動も起きなかったし、ビジネスの場においても、皆が皆、それなりの仮面を被っているのだから剥き出しの感情をぶつけられることは、早々ありはしないのだ。

キアランが思うまま感情をぶつけられる相手も居ない――強いて挙げれば、付き合いの長いジンくらいだろうか。

母国の邸に残してきた幼馴染みは、あからさまに感情をぶちまけるには優しすぎるし繊細過ぎる。

その点で言うと智純は、怒りも悲しみも嬉しさも抑えようとしない。


(内容が内容だから、仕方ないのかもしれないが……)

大人げないと思いながらも、腹の底から沸き上がるムカムカは収まりそうもなかった。

なにより、未だ智純に伝えていないことがある。

その事実が、キアランの苛立ちを助長し、生来の彼の調子を狂わせていた。



「一先ずホテルへ。叔父上に早く報告しなくては」


今のキアランの頭の中には、ただひたすら、大切な「叔父上」を救うことしかない。














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