ラヴレス
* * *
セメントをかき混ぜながら、智純はただひたすら苛立ちを押し隠していた。
思い出す度に脳内に木霊するキアランの不愉快な声に、ふるふると手先が震えるほど腹を立てていた。
そのせいで洗ったばかりの作業着にセメントが飛んだが、気付きもしない。
馴染みの作業員達は、さわらぬ神になんとやら、でただ彼女がミスをしないことだけを祈った。
とは言っても、智純がこの土建会社で働き出して七年ら経つ。
周囲の年配作業員達は、智純を立派な同僚として認めているし、女ながら十五歳から必死に働いて家計を支えている彼女は、その腕もいつの間にか一流になっていた。
なので、幾ら平常心ではないとはいえ彼女が凡ミスをする心配はないのだが、問題はその態度だ。
智純は今ひとつ感情コントロールが苦手な子で――血気盛んな土方作業員達に囲まれて過ごしていたのも一因――キレたら手がつけられない猛獣だった。
乱暴は働かないが、自分でも抑えられない怒りが吹き出して、爆発する。
馴染みのオッサン作業員達は、それが心配だった。
しかし普段ならともかく、今の彼女がそれに気付くわけもない。