ラヴレス








どちらがどう悪いのか等と、過去の「陽向」と「叔父上」には預かり知らぬところだ。


ふたりは、確かに恋しあっていたのだろう。

智純はそんな母を見ている。
キアランはそんな叔父上を見ている。

誰が悪いのだ、と、悪人を決めつけるような問題では、決してないのだ。

それなのに、「あちら側」はそれをまた蒸し返そうとしている。

母が、痛めた胸を抑えて、静かに墓に持っていった出来事を。

母は、「裏切られた」と思ったまま逝ってしまったのに。

今更なにをしようと、その悔いだけはなくならない。

その悲しみだけは、癒されない。



「…誰がイギリスになんか、行くか」

智純が少し冷静を取り戻した時、作業場の表が急にざわめき出した。

見れば、建設途中の足組の隙間から表の通りに高級車が停まったのが見える。


白地に黒のラインが美しいロールスロイス。

あんな車、初めて見た。



「…なんだよ、邪魔だな」

あんな目の前に停められたら、通常の作業に余計な気を遣わなくてはならなくなる。

高級車に傷ひとつでも付けたら、智純も「こころの家」も、なによりこの土建会社にも大打撃だ。









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