ラヴレス
「親方、ボルト取ってきます」
ロールスロイスから視線を逸らし、足場組の上で黙々と作業している親方に声を掛ける。
「おう。ついでに油も持ってきてくれや」
それに手を上げて応え、道具置き場に向かった智純の背後で、ざわめきが一層大きくなる。
バタン、と重厚な扉が閉まる音。
それから、さくさくと足早に地面を叩く足音。
「…?」
(一体、なに…)
近付いつくるらしい足音を不審に思い、振り向く―――。
グイッ。
と、腕捲りをしていた二の腕を乱暴に掴まれた。
振り向こうとしていた勢いが遠心力に変わる。
勢い良く振り向かされた智純の前には、思いもよらぬ人物――キアランが肩を怒らせて立っていた。
その凄まじい身長差に、智純は彼の影に覆い被され数人の作業員からは姿が見えなくなってしまう。
朝と同じ上品なスーツのパンツに、今飛んだのだろう、作業場の泥が跳ねていた。
さらさらのシルバーブロンド、作られたような深い碧眼。
しかしその表情は、酷く固かった。
「…来てくれ」
ぜぇ、と焦燥を滲ませる声が言った。
智純は状況が把握できず、「は?」と返す。