ラヴレス
「智純、貴方も時間ですよ」
「はあい、ばあさん」
最後のたくあんをかじりながら、庭先に目をやる。
産まれたての陽射しを受けて、朝露に濡れた桜の幹が柔らかく光を纏っている。
枯山水など風流なものはないが、きちんと整理された広い庭には、石畳に沿う椿とつつじの塀。
大きな杉の先の向こうへ垣間見えるしがない町は、煙る朝の憂鬱にぼんやりと陰影を隠していた。
一番高い丘の上に建つこの「寺」からは、眼下に広がる町の隅々まで一望できる。
歴史と母屋だけは古いこの寺社の名は、「三鴻寺(さんこうじ)」。
養護施設も併設し、日本では珍しくもない、普通の寺の形をとっている。
地元では、昔から親しまれた家寺だ。
まあどちらかと言えば、「寺」としてではなく、じいさんばあさんが開いた「養護施設」のほうで有名だったりする。
身寄りのない子を猫の子のように拾って来ては愛情を惜しまず育て、立派な「人間」にしてから社会へ送り出す――国からの微細な援助を受けながら、檀家や葬式で支払われるお布施等でなんとかその体裁を保っていた。
私はここが、大好きだ。