ラヴレス
キアランはどこか緊張しているようだった。
急いでいるところを引き留められた上、一体なんの話があるのか、という苛立ちもあるにはあるが。
マイペースに煙草を吹かしている親方の雰囲気に飲まれたらしい。
それはそうだ。
親方は遠山のきんさんの子孫なのである――それがなんの関係があるのかは知らないが。
「…ちい坊はな、まだ小便垂れたガキだが、仕事だけはキチッとこなす奴だ。てめえは随分と急いでるようだが、こっちもこっちでそいつが居なきゃ作業が進まねぇ。仕事に穴空けるってんだ。連れてくなら説明なり断りなり、あって然るべきじゃねえか」
眼光鋭くギラリ、ではない。
親方はその歳に見合った柳のような目で、それでもきっちりキアランへと説教を垂れていた。
「…失礼しました。しかし、こちらも外部には漏らせない事情で急いでいます。焦りの余り、礼を欠いたことには、深くお詫び申し上げます」
キアランは親方の言葉で少しは冷静さを取り戻したらしい。
至極真面目に、少々真面目過ぎるほどに、親方へと頭を下げた。
外国人がするようなにわか辞儀ではなく、きちんと意味を踏まえた上で、頭を下げている。