ラヴレス
そんなキアランの姿に驚いたのは智純だ。
ぎょ、としたのも智純。
親方は一瞬眼光を柔らかくすると、暫し考え込み、やがて。
「…じゃあ、連れていきな」
言った。
それは至って冷静な言葉でなにを思うわけもなく、ふう、と煙草の煙を吐き出す。
キアランは頭を上げ、今度は礼として勢いよく頭を下げた。
「おっ、親方!?」
智純に至ってはぎょっ、の二乗である。
しかしそのままキアランに腕を引かれ、仲間達に見送られながらロールスロイスのドアの向こうへと投げ入れられた。
そのまま走り出したスモークガラスの向こう側で、智純が体力の限り暴れているのが見えた気がした……親方、六十一の冬。