ラヴレス
* * *
「一体、なんの用!」
パンッと小気味良い音がしたかと思えば、がむしゃらに振り回していた掴まれているほうの腕がキアランにアッパーカットを喰らわせていた。
他意はなかったため一瞬の後悔はあったが、誘拐紛いに車に押し込まれたあととあっては素直に謝る気にもなれない。
「…少し、静かにしててくれ」
広々とした車内は、白い外観とは正反対の黒で統一されている。
キアランは座り心地のよいソファシートに身を沈めながら、どこか憔悴したような横顔を見せた。
「……」
その様子に思わず口をつぐんだ智純だったが、しかしそんな場合でもなかった。
「勝手に人を仕事場から連れ出しといて説明もナシ?上司が親方じゃなかったら、今頃私はクビにされてる。金持ちのボンボンは、職を失うのがどれほど大変かなんて解んないわけ?」
男がやるような職種とて、仕事は仕事。
真面目に向き合ってきた智純としては、仕事を途中で投げ出すのだけは我慢がならない。
周りの人間にも迷惑をかける。
それを理由もなしに、しかも昨日知り合ったばかりの怪しい外国人にひっくり返されては堪らない。