ラヴレス
「…私はあんたの国にはいかない。私の人生を滅茶苦茶にしたら、ぶっ殺してやる」
智純は勇ましかったが、キアランはそんな勇敢さを抑え込む力も地位も後ろ楯も、冷酷さも持ち合わせていた。
ただひたすら「家族」の為に生きてきた智純と、何百年と続く「御家」を守るために様々な重圧に堪え、手腕を駆使し、「ビジネスマン貴族」として世界規模で功績を挙げているキアランとは、天と地ほどの差があるのだ。
「家族」しか持たない幸福な智純と、「家」しか持たない不幸せなキアラン。
ふたりは同年代であったが、経験も環境も、キアランのほうが勝っていた。
「―――そう言うと思っていた」
キアランは冷ややかに瞳を細め、智純を憎々しげに見つめた。
それは不自由ながらも自由に生きる智純への妬みからなのか、これから先に待ち受ける受け入れがたい「約束」のせいなのか―――それは智純にも、或いはキアランにも図りかねることだ。
髪と同じ色素が抜けたような美しい睫毛を向けられて、智純はそれをむしってやりたくなるが、さすがにそれは我慢する。