ラヴレス
「ジン、ホテルへ」
そしてキアランは、運転をしている秘書へと声をかけた。
運転席と後部座席を仕切るガラス越しに話を聞いていたジンは、なんとも言い難い顔で頷いた。
「ちょっと、」
智純が我慢ならんと、立ち上がろうとした。
ともすれば、そのままドアを開けて飛び出しそうな勢いだ。
「…言っただろう」
そんな智純のセメントに汚れた手を乱暴に掴み、キアランは酷薄な顔で言った。
「…僕はなにを傷付けたとしても、君をイギリスへと連れて帰る」
底の見えない海。
溺れてもがいたとしても、きっとキアランは助けてなどくれない。
銀糸に透ける冷酷な目に、全身がゾ、と冷えた。
―――キアランは、とうの昔に覚悟を決めていた。
そんなキアランに、智純が勝てるわけなどなかったのだ。
はじめから。