忘れはしない
一瞬、頭が真っ白になった。

ミンナ、ブジダッタノニ?ワレタガラスガ、ノドニ?

「ばっ、そ、そんなことって!」

「運がなかったとしかっ!」

俺の言葉を、かき消すように叫ぶ。いつの間にか、その目には涙が光っていた。

「運がなかったとしか……、言いようがないんです。そう思うしかないんです…」

涙をこらえ嗚咽する声が、部屋の中に響き渡る。

そうだ。辛いのは、俺だけじゃなかったんだ……。

最初、部屋に入ってきて、俺に笑みを向ける早紀ちゃんを見たとき、なんで、笑えるんだ? あぁ、こんなに辛いのは俺だけなんだなぁ、と思ってしまった。

俺は、彼女が目を腫らしていたのを知っていたのに。

辛いのは、俺一人なんだと勘違いし早紀ちゃんを気遣うこともしなかった。

最低だ、俺。

「ごめん…、俺、自分のことしか考えてなった。」

「謝らないで、下さい。京介さんは、何も悪くないんです。大切な…、大切で大好きな人を失ったんですから」

そう言って、無理やり笑顔をつくって、俺に笑いかけてくれた。
< 11 / 67 >

この作品をシェア

pagetop