忘れはしない
パンッ、と、何かが破裂したような音がした。

右頬が熱い。

「馬鹿なこと……っ、言わないでください!」

早紀ちゃんが、怒ったような悲しそうな顔で、俺を睨みつけていた。

が、直後に体全体が柔らかい感触に包まれた。

心まで全て包み込んでくれるような、心地良い感触。

彼女はきつく、だが優しく、俺を抱きしめてくれていた。

「早紀、…ちゃん?」

「そんなこと言っても、お姉ちゃんは戻って来ないんですよ!? ましてや、そんなことを言われて喜ぶお姉ちゃんじゃない!」

耳元で聞こえる厳しく、叱咤する声。それは、とても懐かしいことのように思えた。

「……わからないんだよ。あいつがいなくなって、この部屋に一人きり。それが全然実感できなくて……。あの事故は夢で、今すぐにでもあいつが、ただいまって帰ってくるんじゃないか、遅くなってごめんって笑顔を向けてくれるんじゃないかって思ってる。信じてるんだ……っ」





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