忘れはしない
「それでね、思ったんです。あぁ、やっぱりお姉ちゃんには敵わないな~って」

あいつらしいといえば、あいつらしい。

いつでも、あいつは、笑っていた。
喧嘩して、怒ったり、拗ねたりしたときでも、最後には、とびきりの笑顔を見せてくれた。

不意に、目頭が熱くなった。

涙は、流しきったはずなのに……。あの笑顔を、俺はもう、見ることが出来ないかと思うと、切なくなる。

「……京介さん、笑ってください。ほら、にーって」

早紀ちゃんが、ほっぺたを引っ張って、にーっと笑う。

その姿がどこかおかしくて、思わずつられて笑ってしまった。

「その調子です。そのままでちょっと待ってください」

そう言ってかばんから手鏡を取り出すと、俺のほうにむける。

ひどい顔だ。瞼は真っ赤に腫れ上がり、顔全体が涙でむくんでいた。少し、髭も伸びたかもしれない。

そんな俺が、鏡の中から俺に笑いかけていた。

その顔が、ひどく滑稽で、変で、おかしくて。

気がつくと、俺は、笑っていた。

早紀ちゃんも、そんな俺を見て笑っている。

俺達は、しばらくの間笑いあった。


馬鹿みたいに、腹を抱えながら。


< 18 / 67 >

この作品をシェア

pagetop