忘れはしない
すっかり冷めてしまった飯を食べ終わり、後片付けをしていると、不意に早紀ちゃんの携帯が鳴った。

どうやらお母さんからのようで、用事があるから、早く帰ってこいとのこと。

「すいません。後片付けの途中だったのに」

「いや、美味い飯をご馳走になったのに、そこまで文句は言えないよ。ありがとう。ほんとに美味しかったよ」

「いえいえ。お粗末さまでした」

早紀ちゃんを玄関まで見送る。本当は、家まで送ってあげたかったのだが丁重に断られた。

「そんな、ひどい顔で家に来たら、お母さんに怒られますよ?」

とのこと。

とはいえ、俺も、まだ、心の整理がついておらず、今すぐに優希の遺影に手を合わせることは出来ないと思う。

「じゃあ、また。お邪魔しました~」

「あ、早紀ちゃん」

だからといって、いつまでも逃げているわけにはいかない。


それに、俺にはやり残したことがある。

「はい? どうしたんですか?」

「明日……。明日、家にお邪魔してもいいかな? どうしても、やらなきゃならないことがあるんだ」

んー、と考える素振りをした後、早紀ちゃんは、笑顔で頷く。

「はい、ぜひ来てください。お母さんも喜びます。……それに、お姉ちゃんも」

「じゃあ、昼頃に行くと思うからよろしく」

「わかりました。待ってます」

それじゃあ、と言い、早紀ちゃんは帰っていった。

俺は、その背が見えなくなるまで見送った。

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