忘れはしない
見慣れない、天井がみえる。

一面、真っ白の。
そして、規則的に聞こえてくる、電子音。

こ、こは?

意識がはっきりしない。頭が、ぼぅっとする。

体を動かそうとしたが、言うことを聞いてくれなかった。

ふと、隣のほうから、声が聞こえてきた。誰かの名前を呼んでいるようだ。
それは、叫び声に近かった。


「ゆうき、いくんじゃない!ゆうき!」

ゆう…き…?


「ゆうき、頑張るのよ!まだ、やり残したことがあるんでしょう!?」

ゆうき、という名前に反応し、俺は、首だけ動かし、隣を見た。


「お姉ちゃんっ、京介さんと結婚するんじゃなかったの!?ダメだよっ、こんなの!」

女性が、ベッドの上に、寝かされている。

包帯をところどころに巻かれていたけど、いろんな器具をつけられていたけど、それは、紛れもなく……、優希だった。

優希?なんで、そんなところで寝てるんだ?

今日の、晩飯の当番は、お前だっただろ?

早く、うまい飯を食わしてくれよ。おはよ~って、おどけた声で、俺を笑わしてくれよ、なぁ……、優希ぃ…。

でも、声は出なくて。代わりに、涙が、どんどん溢れ出てきて。

やがて、無機質な電子音が、全ての終わりを告げた。

おじさんと、おばさんは泣き崩れ、早紀ちゃんは、優希にすがりつき、泣き、叫んでいる。

俺は、抱きしめてやることさえ、できなかった。


優希は、逝ってしまった。
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