忘れはしない
追憶
ただ、優希の喜ぶ顔がみたい。それだけだった。

二泊三日の温泉バスツアー。俺は、それに優希を誘った。

優希は、ばばくさいというかなんというか、温泉が大好きだった。

いつか全国の秘湯めぐりにいこうね、なんて言われたことがある。

笑って誤魔化したが。

優希はとても喜んでくれた。しかし、大学の補習やバイトが入っていたため、一度は断られた。

しかし、俺は引き下がらず、どうしてもと頼み込み、土下座寸前までいってようやく了承をえた。


「わかった、わかったからぁ~。土下座はやめなさいって。みっともないわよ。もう、変な京介ね~、よしよし」

そう言って笑いながら、頭を撫でてくれたのを覚えている。

俺は、このツアーで優希に伝えたいことがあった。

それはプロポーズの言葉。

早紀ちゃんに事の次第を伝え、指輪を選ぶのを手伝ってもらった。

あ~でもないこ~でもないと選びに選んだのは、俺の2ヶ月分の給料が、飛んでいくかいかないかくらいの指輪だった。

ダイヤモンドが一つ、ちょこんと付いているだけのシンプルなやつだった。

こんなのでいいのか?と、聞くと早紀ちゃんは、


「京介さんの気持ちがこもっていれば、なんだっていいんですよ。どんなモノだって、それはお姉ちゃんにとって世界一大切なモノになるんです。……でも、ちょっと高いかも、ですね~」

あんまり見せつけないで下さいよ?

そう言って、早紀ちゃんは俺をからかい笑うのだった。

そして、運命の日ー


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