忘れはしない
朝から、雲が空を覆い尽くす嫌な天気だった。

午後からの降水確率は80%。最悪の行楽日和だ。

緊張のせいか、ほとんど眠れなかったため身体がだるい。

んーっ、と伸びをすると、横で寝ている優希が身じろぎした。

ったく、人の気も知らないでのんきに寝やがって。

鼻の頭にデコピンをしてやると、んっ、と小さくうめいた。が、すぐに規則正しい寝息が聞こえてくる。

まだ時間は早い。できるだけ起こさないように、布団から出る。

特にすることもないので、とりあえずタバコを持ってベランダに出た。

しかし、なんでこんな日に限ってこんな天気なんだろうな。

ちょっと不安になるじゃないか。

火をつけ煙を吸い込む。

もし指輪を受け取ってくれなかったらどうしようとか、プロポーズ断られたらどうしようとか、しょうもない心配ばかりが頭の中をぐるぐる回っている。

ふぅ、と煙を吐き出す。

でも、ちっとも気持ちは楽にならなかった。

はぁ、どうしたもんかな。

ふと、後ろに気配を感じ振り返ると、優希がねぼけた様子で立っていた。

「おはよう」

「……おはよ~」

もの凄く眠そうだ。焦点があっていない目で、どこか虚空をぼーっと見ている。

「まだ時間あるし、うちょっと寝てこいよ。じゃないと後々辛いぞ?」

「んー、たぶん大丈夫。それより」

じっと、視線が俺の手元に注がれる。

あ、やばっ!

慌てて火を消して、後ろ手に隠すが、時すでに遅し。

「…タバコ、止めるって言ってなかったっけ?」

「あ~、できるだけ、って言ったろ? 大丈夫、お前の前では吸わないようにするからさ」

「もう、そういう問題じゃないでしょ??身体に悪いから言ってるのよ!」





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