忘れはしない
「泣かないでよ。今泣かれたら私…」

俺の泣き声と、優希のすすり泣く声が部屋の中に響きわたる。

どうしようもない気持ちが、胸をしめつける。

俺が泣きやむのを待って、優希は切り出した。

「…私、そろそろ行くね」

それがちょっと近くまで買い物に行く、のとは違うのだというくらい、俺にもわかる。

もう二度と会うことのない、今生の別れになるのだ。

「どうしようもないん、だよな?」

「…どうしようもないよ」

暗い沈黙が訪れる。

どうすればいい。今俺には何ができるんだ!?

「じゃあ、」

行ってくる、と言いかけた優希の言葉を遮り、叫ぶ。

「ちょっと待ってくれ!」

いきなりの大声にびっくりしたのか、目が点になっている。

「…ごめん。でも、やり残したことがあるんだ」

俺は何のためにここに来たのか。

あの日できなかったことをするためではなかったのか。

床に落ちたままになっていた、小さな箱を拾い、中から指輪を取り出す。

「……この指輪、受け取ってくれないか?」

「え?」
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