忘れはしない
「俺と、結婚してください!」

指輪を差しだし頭を下げる。

「…え?ええ!?」

優希は困惑した様子であたふたと慌てている。

顔は見えないが、真っ赤に染まっていることだろう。

俺と同じように。

「な、何言ってるの!?私は、もう死んでるのよ!?二度と会えないのよ!?そんなんで幸せになんてなれるわけないじゃない!」

「そうかもしれない。でも、俺はお前が好きだ!愛してる!この気持ちは変わることはないし、消えることもない!それに、このまま黙ってお前を行かせたら、俺は一生後悔してしまう。だから!」

思ってることをぶちまける。心からの言葉を。

「だから、聞かせてくれ。お前の気持ちを…!」

長い、といってもそう感じただけで実際は短かったかもしれない。沈黙を破ったのは、優希の嗚咽だった。

「わ、私だって…、京介と結婚したい、わよ。春は、桜を見に行って、夏は、海に泳ぎに行って、秋は、お団子たべて、冬は、スキーに行って、それから、それから!」

我慢していたんだろう。堰をきったように流れ出す涙と言葉を、俺は黙って聞いていた。

「楽しくないはずない!京介となら、何をしていても幸せを感じられるから…。でも、無理じゃない!もう、さよならなのよ!?なら、せめて京介の足枷にならないようにしたいの!」

「バカやろう!」

それは神様がくれた最後の奇跡なのか。




俺は、優希の華奢な身体を力強く抱きしめていた。
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