忘れはしない
「汝、優希は病めるときも、健やかなるときも、私、京介を愛することを誓いますか?」

神父はいない。参列者もいなければ、場を盛り上げるオルガンもない。

「…はい、誓います」

俺達二人だけの、神聖なる結婚式だった。

「あなた、京介は病めるときも、健やかなるときも、私、優希を愛することを誓いますか?」

「はい、誓います」

少し照れるが、迷いはなかった。後悔もしない。

「じゃあ、指輪の交換……、あっ!?」

「ど、どうしたの!?」

しまった。指輪は一つしかないんだった!

肝心なところで、やはり俺はダメなようだった。

「ごめん!やっぱり俺、バカだ…」

だが、優希は何か思いついたように指輪を手に取る。

「こうすればいいのよ」

言いつつ指輪を自分の薬指にはめる。

そして、何かぶつぶつ呟いている。

「はい。これで私は京介の妻よ。それで、この指輪を…」

何を思ったのか、指輪をとり、俺の薬指にはめる。

「これで、京介は私の夫ね」

嬉しそうに言う優希に、いまいち意味のわかっていない俺はあっけにとられた顔をする。

「私は持っていけないから、京介に持っていてほしいの。私の想いは指輪に託したから」

俺は、右手に光る指輪を見て目を細めた。

優希のためのプレゼントが形見になるなんて皮肉なもんだ。

「じゃあ、最後に誓いのキス、しましょうか」

「…ああ」

優希の肩に優しく手を置き、引き寄せる。

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