忘れはしない
「京介さ~ん、準備終わりましたか!?」

玄関から早紀ちゃんの声がする。

「ああ、終わったよ!もう、持っていっても大丈夫だ!」

今日、俺は斉藤家へ引っ越すことになっている。

仕事をやめ、家賃も払えなくなってきた俺をおばさんは助けてくれた。

「あんたはもう私の息子なんだからうちに来たらいいじゃない。早紀も喜ぶし、なにより優希が一番喜ぶしね!」

本当におばさんには頭があがらないと思った。
どれだけ感謝してもしたりないくらいだ。

これから、精一杯親孝行していこうと誓う。

「じゃあ、運んじゃいましょうか」

「ああ」

ここにはたくさんの思い出がある。
正直、出て行くのは辛い。

でも、ここにいると楽しかったあのころばかりを思い出してしまい、前には進めない。

前に進むために、俺は決意した。

「それに、優希はここにいる」

そっと、指輪を撫でる。

「え?なにか言いました?」

独り言のつもりだったのだが、早紀ちゃんに聞こえてしまったようだ。

「いや、なんでもないよ」
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