ラブ☆ヴォイス
「萱原?」

 一気にあっくんの声が怪訝そうなものに変わる。それもそのはずだ。

「会ったのか、萱原に。」
「華たちにあっくんたちと一緒に旅行行こうって話をしてたら、萱原さんと…。」
「祥、か。」

 一瞬ズキっと音を立てて胸が軋む。あっくんに『唯』って呼ばれると心臓が飛び出してしまうほどに嬉しいのに、別の女の人の名前を呼ばれると心臓が引き千切られるような思いに捕われる。

「それで、何言われたんだ?」
「え…?」
「何か言われたからかけたんだろ?」
「…言わなきゃ…ダメ…?」

 言いたくない。あっくんを傷付けるような言葉だったから。それに、自分が何も知らないことを認めてしまう言葉だったから。

「そんなに言いたくねぇのか?」
「…言いたく…ない。」
「なんで?」
「…あっくんを傷付ける…言葉…だったから。」

 涙が零れる。あえて一つの理由を隠した。…だってそれは、自分とあっくんの距離を如実に示すから。思い出すだけでも嫌だ。あの言葉も、萱原の表情も、何も言わない祥の表情も。

「…泣くなって。」

 困ったようなあっくんの声が上から降って来て、余計に涙が出た。
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