ラブ☆ヴォイス
「…すいません。ちょっと休んだらちゃんとやりますから。」

「それ、もう8回くらい聞いたんだけど?」

「じゃあ俺、8回も綾瀬さんに叱られたんですね。」

「あんたが8回も叱られるようなことしたからよ。」

「正論です。」


綾瀬さんは、正しいことしか言わない。
でも逃がしてくれないほどに追い詰めてくることは絶対にしない。


引き際を上手く心得ていて、絶対に踏み込んでほしくないところにまでは踏み込んでこない。


「ま、人生山あり谷ありだから、向坂にも色々あるんだろうけど…。
こっちはお金貰ってるわけだしね。労働の対価として。
だからお金分の労働はちゃんと提供しなきゃダメよ。
そこに私情を挟んでお客様を困らせたらプロじゃないわ。」

「…本屋にプロとかあるんですか?」

「本屋にプロがあるとかないとかそういう話じゃなくて!
労働というものに対する意識の問題!
とりあえず、少し頭冷やしな。
これ、あげるから。」

「え…?」


目の前に差し出されたのはサイダー。
…確かに少し目は覚めるかもしれない。


「ありがとうございます。」

「素直でよろしい!
飲み終わったら勤務戻りな。」

「…はい。」


綾瀬さんがいなくなってから、ペットボトルのキャップを開けた。
プシュっと音がして、少しだけ炭酸が抜けた。


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