ラブ☆ヴォイス
「は…?」

「俺、さっきあがったんですけどそのまま勤務入ります。
だから綾瀬さんは帰って大丈夫ですよ。」

「…おなか減るじゃん、向坂が。」

「まぁそうですけど、店長も鬼じゃないし休憩少しはくれると思います。
俺が適当に言って誤魔化しておきますから、ゆっくり休んで下さい。」


…なんでこんなこと言ってるんだろう、俺。
だけど、綾瀬さんがこんなに辛そうな顔しているのにそのままバイトしてくれとか…とりあえず今の俺には言えない。


俺が辛くてどうしようもない時、綾瀬さんは叱るでも責めるでもなく、逃げ道を上手く作ってくれた。
だから今、その時の恩返しに綾瀬さんに休む道を作ってやる。
…多分、そんな感じの気持ちから言ってるんだろ、こんなこと。


「…本当にいいの?」

「はい。早くその顔、直してください。」

「…そんなに酷い?」

「綾瀬さん目当てで来てるお客さんに結構なダメージを与えてしまう程度に酷いですね。」

「じゃ、相当だな…この顔。」

「相当です。」

「少しは大丈夫くらい言いなさいよ。」

「綾瀬さんに嘘を言っても無駄ですから。」


それに綾瀬さんは嘘を極端に嫌う。
だから嘘をついてもすぐばれる。…らしい。
俺は綾瀬さんに嘘をついたことがないからよく分かんねぇけど。


「じゃ、お言葉に甘えて。」

「たまには甘えてください。
…よく分かんないですけど、お大事に。」


…もっとなんか言えねぇのかよ、俺!
とか思ったけど、俺の気のきかないセリフに、綾瀬さんは小さく笑ってくれた。

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