ラブ☆ヴォイス
抵抗される、と思った。
後からだけど。


下手すりゃ殴られるって思ったし、ていうかボコボコになってもおかしくなかった。


それなのに…


「…不本意だけど…あ、ありがとう。
一人じゃ…多分パニックだったから…。」



『ありがとう』


こんなクリアな響きを、俺は知らない。


暗闇にケータイの灯り。
呼吸の音と、心臓の音だけしか聞こえない空間。


彼女の呼吸の音が、いつしか寝息に変わっていた。


ちょっとだけ灯りを彼女の顔に近付ける。


あどけない寝顔に、思わず笑みが零れる。





「…気を許さないなら最後までそうしてくれないとねー…
俺も聖人なんかじゃないって、君も知ってるでしょ?」





でもなぜなのだろう。
簡単に手にしてしまえる距離にいて、彼女はこんなに無防備なのに。
それでも、彼女に触れるこの手が震える。


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