ラブ☆ヴォイス
「俺は由実を一番大事に…というか、特定の誰かを一番大事に…とか、そういうの、どうも出来そうにない。今までも出来てなかった。
なんでか…とかよく分かんねぇけど、とりあえず出来てなかったことは認める。
それで由実に悲しい想いをさせていたんだとしたら、本当に悪いと思ってる。
だから、こんな中途半端な気持ち…というか俺も不安定…みたいなこの状態で由実と一緒にいるのはよくないって思う。」

「…そうね。私は私を一番大切にしてくれる人と付き合いたいわ。」


その表情はとても彼女に似ていて、少しだけはっとした。
…俺の知る由実はこんな表情をしない。
つまり俺は、彼女の本質を全然見ていなかったということで。
だけどそんな俺の本質を、由実はしっかりと見てくれていた。





「だから達也、別れましょう。私はもう、あなたのこと好きじゃない。
私があなたを好きじゃなくなったから別れるの。
私があなたにフラれたわけじゃないんだから、そこのところ、勘違いしないでよね?」

「…うん。俺が嫌われただけ。」

「嫌ってないわよ。大切な妹に優しくしてくれた、そのことには感謝してるわ。」

「亜実ちゃん、暗いとこダメなんだな。あんなに強いのに。」

「強いって…まぁ空手やってたしね。」

「空手!?あー…納得。だからあんなに拳が強いわけね。痛かったーほっぺ。」

「あら、殴られでもした?」

「由実のことで殴られたんだよ。」

「あらあら。でも自業自得でしょう?」

「そう言われたらもう俺にはどうしようもありません。」

「素直で大変よろしいわね、達也。」


くすくすと微笑む由実。
…由実は、強い。その笑顔に何故だかそう思えてしまう。


< 336 / 396 >

この作品をシェア

pagetop