月花の祈り-宗久シリーズ小咄3-
地面に置いたバッグを持ち上げ、先輩が呼ぶ方へ足を向けかけた。
……ふいと、気配を感じた。
花の香りの様に、どこからか漂う気配…。
庭を見渡した僕の目に、隅にあるものが止まる。
椿の木だ。
それほど大きくは無い。
まだ枝も幹も細く、花すら着けてはいない。
……いや、おかしいな。
細くとも、椿は花を着ける木だ。
それに、あの椿の高さ。
多分、僕の身長より高い筈だから、少なくとも180以上はあるだろう。
なのに、その椿は花を着ける事も無く、ひっそりと庭の隅に在る。
まるで、その存在を隠したいかの様に。
病気……なのだろうか。
だが、先程流れてきた気配は、間違い無くあの椿からだった。
何だろう……。
「宗久」
再び呼ばれ、思考から戻された。
気になるが、椿とは後で話をしよう。
今は挨拶が先だな。
慌て走り寄った俺に、深々と頭を下げる女性。
先輩の妻、薫さんだ。
会ったのは、三度目。
一度目は先輩の結婚式、二度目は貴志君の葬儀だった。
「遠い所お越し頂いて、ありがとうございます」
……ふいと、気配を感じた。
花の香りの様に、どこからか漂う気配…。
庭を見渡した僕の目に、隅にあるものが止まる。
椿の木だ。
それほど大きくは無い。
まだ枝も幹も細く、花すら着けてはいない。
……いや、おかしいな。
細くとも、椿は花を着ける木だ。
それに、あの椿の高さ。
多分、僕の身長より高い筈だから、少なくとも180以上はあるだろう。
なのに、その椿は花を着ける事も無く、ひっそりと庭の隅に在る。
まるで、その存在を隠したいかの様に。
病気……なのだろうか。
だが、先程流れてきた気配は、間違い無くあの椿からだった。
何だろう……。
「宗久」
再び呼ばれ、思考から戻された。
気になるが、椿とは後で話をしよう。
今は挨拶が先だな。
慌て走り寄った俺に、深々と頭を下げる女性。
先輩の妻、薫さんだ。
会ったのは、三度目。
一度目は先輩の結婚式、二度目は貴志君の葬儀だった。
「遠い所お越し頂いて、ありがとうございます」