月花の祈り-宗久シリーズ小咄3-
「先輩」
「何だ?」
「あの椿なのですが…」
僕の指差した先に立つ椿。
それを見た先輩の表情が、一瞬曇る。
やはり、何かある。
「あの椿、高さから見ても十年近くは経っていると思うのですが、花を着けていないのが気になって…」
「ああ…確かに十年は経つが…あれは一年前からなぜか花を着けないんだ。それまでは咲いていたのに…」
咲いていた?
「……きっと、もう二度と咲かないのだわ」
薫さんが、ぽつりと呟く。
その表情は込み上げる悲しみに耐えている様で、僕はその理由を容易に飲み込めた。
貴志君だ。
先程感じた気配も、おそらくそうだ。
貴志君は、間違い無くこの家に居る。
どこに居るのか…なぜ留まるのか…。
漠然とだが、感じ取れた。
年末まではかからないだろう。
せめて新しい年を、この家が、家族が、少しでも安らかな気持ちで迎えられる様に。
それは、僕だけの祈りでは無かった。
それに気付けたなら、物事は早い。
今夜にでも、椿と話をしてみようか。
そう決め、僕は椿を見つめた。
.
「何だ?」
「あの椿なのですが…」
僕の指差した先に立つ椿。
それを見た先輩の表情が、一瞬曇る。
やはり、何かある。
「あの椿、高さから見ても十年近くは経っていると思うのですが、花を着けていないのが気になって…」
「ああ…確かに十年は経つが…あれは一年前からなぜか花を着けないんだ。それまでは咲いていたのに…」
咲いていた?
「……きっと、もう二度と咲かないのだわ」
薫さんが、ぽつりと呟く。
その表情は込み上げる悲しみに耐えている様で、僕はその理由を容易に飲み込めた。
貴志君だ。
先程感じた気配も、おそらくそうだ。
貴志君は、間違い無くこの家に居る。
どこに居るのか…なぜ留まるのか…。
漠然とだが、感じ取れた。
年末まではかからないだろう。
せめて新しい年を、この家が、家族が、少しでも安らかな気持ちで迎えられる様に。
それは、僕だけの祈りでは無かった。
それに気付けたなら、物事は早い。
今夜にでも、椿と話をしてみようか。
そう決め、僕は椿を見つめた。
.