月花の祈り-宗久シリーズ小咄3-
「来ないで!」

そう叫び、舞ちゃんは身体を強張らせる。

「おじさんは来ちゃダメ!」

必死な表情。

小さな身体で、椿を守ろうと…。





やはり、そうだったか。

この子だけは、気付いていたのだな。




「舞ちゃん、僕は何もしやしないよ。椿と話をしたいんだ」

「嘘…」

「どうしてそう思うの?」



質問に舞ちゃんは俯き、小さな唇を噛み締めた。



「おじさんは…お兄ちゃんを消すから」

「そんな事しやしないよ」

「嘘だよ!」

「嘘じゃないよ」

「だっておじさんは、ユーレイを見れる人なんでしょ?お母さんが言ってたもん。だからお兄ちゃんを消しちゃうよ!」

「お兄ちゃんがそう言ったの?」



僕の言葉に、舞ちゃんは表情を緩めた。


悩む様に俯くと、数秒の間を置いた後に、ゆっくりと首を横に振った。



思わず、笑みがこぼれる。


「舞ちゃんは、本当にお兄ちゃんが好きなんだね」


舞ちゃんは顔を上げた。

大きな瞳が、僕を見上げる。



曇りの無い瞳。


ただ、一生懸命だったのだ。

幼いなりに、守らなくてはならないものも、大切な事も感じ取り…ただ必死に耐えていたに違いない。
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