月花の祈り-宗久シリーズ小咄3-
舞ちゃんにだけは、聞こえていた。

貴志君の声が。


けれど言えなかった。

家族に言えなかったのだ。

兄の死から立ち直れず、未だ悲しみを募らせる家族に…兄の話を口にしない家族に…兄の声を伝える事が出来なかったのだろう。



そうして一人で、その小さな心に溜め込んでいた。




…重かっただろう。

辛かっただろう、悲しかっただろう、苦しかっただろう。


兄の悲しみも聞こえるから、余計に……。






力無く両腕を降ろし、じっと地面を睨む舞ちゃん。

僕は腰を落とし、その小さな肩を抱きしめた。


…温かい。

小さな心の温もり。




「一人でよく頑張ってきたね…もう大丈夫。おじさんが、お兄ちゃんの悲しみを取ってあげるから」



抱きしめた肩、震え始めた身体を、いっそう優しく抱きしめる。




「だからもう…泣いてもいいんだよ」



「……うっ……え…」


包み込んだ腕の中、舞ちゃんが微かに嗚咽を上げる。


「いいんだよ…我慢せずに、思い切りお泣き」

「うあっ!ひっく…う…うわああああっ!!」



舞ちゃんは泣いた。

頼りない腕で僕に縋り付いて、顔を胸に埋めて。
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