月花の祈り-宗久シリーズ小咄3-
こんな小さな身体で、心で、この子はこの子なりに覚悟を貫いてきたのだ。


唇を噛み締めながら…泣き方さえ忘れてしまいそうな程に。




この原因を作ったのは、悲しみ以外何ものでも無い。

悲しむのが悪い訳では無い。

悲しみから周りを見ようとせず、揚句に周りを傷付けてしまう事が良く無いのだ。



悲しみは、本人だけのものではない。

共有出来るなら、共有すれば良いのだ。

少しずつ分け合い、軽くなればいい。


それは、貴志君を忘れるという意味じゃない。


深い悲しみに沈んだままでは、何も見えてこないからだ。



カーテンを開かなければ、朝に気付けないのと同じ様に。

そのままでは、太陽の眩しささえわからないままだ。

太陽と同様に、貴志君との思い出も眩しいものの筈。

それを仰ぎ見ずに、本当の供養が出来る筈は無い。




溺れていたのは、川底にいたのは、貴志君ではない。

両親の方だ。



貴志君も舞ちゃんも、懸命に川岸から両親を呼んでいたのに、それに応え無かったのは親の方だ。


だから貴志君の声も届かなかった。



…もっと早くこの子達の苦しみに気付けたならば……。
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