月花の祈り-宗久シリーズ小咄3-
すすり泣く小さな身体、その頭に頬を擦り寄せ、背中を撫でてやる。



「……ごめんね?おじさんが早く気付いてあげたら良かったね?」



泣きながら首を振る舞ちゃんに微笑み、僕は顔を上げた。


まっすぐに、椿の木を見つめる。






「ごめんね?……貴志君…」






僕の言葉に連動する様に、椿の葉が揺れた……。


その葉の影から、ぼんやりと小さな無数の白い光が放たれる。

まるで、霧が形を成そうとするかの様に。




木の下に降り積もる様に集まる霧は、やがてゆっくりと形を浮かび上がらせていく。




その利発な顔立ちは、昔写真で見た事がある。



貴志君だ……。



貴志君は、亡くなった後も両親が心配で傍にいたのだ。


それに大人達は気付けなかった。

見える筈なのに、聞こえる筈なのに、気付けなかったのだ。




だから彼は、椿に花を着けない事で、それを伝え様としたのだろう。



椿自身の声を聞いてもわかる。

椿は貴志君の為に、自ら望んで身体を貸し与えたのだ。


共に成長してきた彼を救いたい一心で。




ふわりふわりと、弾む様な歩調で近付いてくる貴志君。
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