月花の祈り-宗久シリーズ小咄3-
その手が、僕の腕の中で泣く妹の頭を優しく撫でる。


―ごめんな…舞―



兄の声に安心したのだろう、僕の浴衣を握る舞ちゃんの手から、力が抜けていくのを感じた。


それを見届け、僕は貴志君に語りかける。




「貴志君、君の声を僕に聞かせてくれないかな」



呼び掛けに、貴志くんは頷いた。

その瞳に、強い意思を確認する。



…よし、この子は大丈夫。



貴志君を見つめ、声を待つ。


やがて小さな唇が、言葉を紡ぎ始めた。




―僕…身体が重くて神様の所に行けないんだ…―




身体が重い……。




「それは、どういう意味?」

―椿の幹を見れば、おじさんならわかる筈だよ―





貴志君の返答に僕は立ち上がり、椿の幹へと歩み寄る。


細い幹。

こんなに痩せてしまって…可哀相に。




指先を、痩せた幹に滑らせた。

途端、違和感が指の動きを止める。




…幹が、濡れている。

まるで豪雨にさらされた様に。




おかしいな。

地面や他の木々には、雨に打たれた形跡は無かったが。





「それね、お兄ちゃんが死んじゃってからずっとこうなの…」
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