月花の祈り-宗久シリーズ小咄3-
僕の隣、同じ様に小さな手を幹にあてながら、舞ちゃんが呟いた。



貴志君が亡くなってから?


「舞ね、何回も拭いたんだけど、またすぐ濡れちゃうんだ」




拭いても……?


椿の幹から溢れているという事だろうか。






指先を幹から離し、見つめてみる。



透明な液体。


微かに温もりが感じられるが…。






……………まさか。







「あ!おじさん」



幹に湧き出る液体が付着した指に、舌先を這わせた。



口の中に広がる味覚。



………覚えがある。


やはりこれは……。






「貴志君…君は…」

―ね…わかったでしょ?―




そう言い、貴志君は淋しげに微笑んだ。



―だから僕、神様の所に昇れないんだよ―










ああ………何て事だろう。


こんなにも子供達を苦しめていたなんて。

優しさが、この子を苦しめる。

優しさが、自らを捕らえている。



これでは貴志君は逝けない。

どこにも逝けない。

縛られたままだ。



誰にとっても安らぎは無い。




この悲しみを止めなくては。



僕が導いてやらなければ。
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