月花の祈り-宗久シリーズ小咄3-
首を傾げ、貴志君の表情を伺う。


迷いがある場合、それで結果が変化してしまうからだ。

あるならば、今の内に聞いてやらなければ。





僕は静かに、貴志君の返答を待った。


やがて貴志君は、吐息を吐き出す様に小さな声で話し始めた。




―…おじさん―

「何だい?」

―僕が離れても…椿は枯れたりしない?―

「……貴志君」






ああ、本当に……。



本当に…この子は何て温かい魂を持つのだろう…。






目頭に込み上げる熱さに耐えながら、僕は笑って見せた。





「大丈夫だよ、おじさんが枯らせたりしないから」

―…良かったぁ―




力が抜けた様に笑う貴志君。





―あと一つ、聞いてもいい?―

「いいよ」

―天国って、怖くない?―


子供らしい素朴な疑問に、思わず笑みが込み上げる。




「怖くないよ」

―本当?―

「天国って所は、貴志君を守ってくれる。貴志君が安らかに眠る為にある場所なんだ。苦しい事なんて全然無いよ。もしもあったなら、おじさんが神様に言ってあげる。貴志君に意地悪するなって」



緊張が緩んだのか、表情を崩して貴志君は笑う。
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