月花の祈り-宗久シリーズ小咄3-
落ち着かせる意味も込め、僕はわざとゆっくり語り掛けた。



「確かに僕は、貴志君に会いました。ですがまずは、先輩方に落ち着いてもらうのが先です」





焦っていた自分に気がついたのだろう。

すまんと言いながら、先輩は深呼吸を繰り返す。



「高ぶる気持ちもわかります。けれど、貴志君の思いは逃げたりしません。僕はきちんと、先輩方に伝えますから」

「……ああ、そうだな」




落ち着きを取り戻していく先輩。

握り締められた両拳から力が抜けていくのを見届けながら、僕もまた、深呼吸をする。








さぁ…始めようか。

貴志君の魂を、眠りへと誘う儀式を。








最後の深呼吸。


大きく息を吐ききり、僕は椿の幹に手を置いた。





「先輩、この椿は貴志君の誕生と共に植えられたものですね」

「あ…ああ…」

「なぜ花を着けないのか、そこから話します。まずは、椿の幹に手を置いてくれますか?」



僕の説明が不可解だと感じているのだろう。

先輩方夫婦は、眉を潜めながら顔を見合わせている。



だが、ここから始めなくてはいけない。



これこそが、核心なのだから。
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