月花の祈り-宗久シリーズ小咄3-
雨にでは無く、夜露にでも無く…。



「この原因は何なんだ?貴志と関係があるのか?」

「椿こそが、貴志君の魂と同調していたのですよ」

「魂…と?」

「先輩、この液体が何だかわかりますか?」




いや、と先輩は首を振る。



「油…か何か…」

「違います。もっと人に近いものです」

「人に?」





そう、人に近いもの。


人の中でも、先輩…あなた方夫婦に一番近いもの。

原因自体が、先輩達夫婦。




椿を濡らしているもの。


それは………。










「涙です」

「涙?!」

「そう…涙なんです」





この涙こそが、貴志君をここに縛りつける原因なのだ。




「僕も舐めてみるまで気付きませんでしたよ。先輩、言ってましたよね?貴志君が、いつも水を被った様に濡れていると…あれで気付けました」



僕の言葉に、先輩と薫さんの表情が変化していく。




「………それじゃあ…貴志が濡れているのは…」

「そう、先輩方二人の…家族の悲しみの涙からです…」







風が、庭を流れていく。


木々の間を、すり抜けていく。



その風は、椿と僕を包む様に集い始める。
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